HISTORY 競技
1984年世界アマチュアゴルフチーム選手権
日本が優勝した唯一の世界アマ
2年に一度、世界各国から代表選手が集まって“アマチュア世界一”を競う大会が開催されている。正式名称は男子が「アイゼンハワートロフィー世界アマチュアゴルフチーム選手権」、女子が「エスピリトサントトロフィー世界女子アマチュアゴルフチーム選手権」。通称「世界アマ」である。
「チーム選手権」の名の通り、チーム戦がメインの競技。2023年大会は男女とも36の国・地域が参加しての72ホールストロークプレー。3人の代表のうち各ラウンド上位2人のスコアがチームスコアとして採用される競技方法だった。
男子は1958年、女子は1964年に始まった歴史ある大会で日本は男女通じて1回だけ頂点に立ったことがある。1984年の男子チームだ。
当時の代表は4人編成だった。代表選手は年齢順に加藤一彦、阪田哲男、木村憲明、尾家清孝という面々である。最年長の加藤は38歳、最年少の尾家は25歳。日本アマチュアゴルフ選手権6勝を誇る中部銀次郎がノンプレイングキャプテンを務めていた。
1958年の第1回大会から出場している日本は、当初は下位に甘んじていたが徐々に上位に食いこむようになる。1974年の第9回大会、1976年の第10回大会、そして前回1982年の第13回大会と2位に3回入るなど、世界一が手の届きそうなところまで来ていた。
最も日本代表歴が長い阪田は8大会連続8回目の世界アマ。この時点で日本オープンゴルフ選手権ローアマ4回、関東アマチュアゴルフ選手権3勝など多くのタイトルを手にしていた。加藤と尾家も2位に入った前回大会メンバー。加藤は前年の日本アマチュアゴルフ選手権覇者で、尾家は前年まで九州アマチュアゴルフ選手権3連覇という戦歴を持つ。世界アマ初代表の木村は、この年の関西アマチュアゴルフ選手権チャンピオン。各自、申し分のない実績を誇っていた。
1984年、アイゼンハワートロフィー世界アマチュアゴルフチーム選手権の優勝メンバー。右から阪田哲男、木村憲明、加藤一彦、尾家清孝
3回の2位を経てつかんだ世界の頂点
1984年大会の会場は香港のロイヤル香港ゴルフクラブ(現・香港ゴルフクラブ)だった。アジア開催は日本の川奈ホテルゴルフコース富士コースで行われた1962年の第3回大会以来、11大会ぶりのことである。
このアジア開催が日本にはプラスに働いた。ロイヤル香港ゴルフクラブのグリーンは当時の日本で一般的だった高麗芝。国際経験豊富な阪田は「欧米の選手が慣れないグリーンに手こずることは予想できたから、やれるという手ごたえはあった」と自著(阪田哲男のゴルフ魂)で述懐している。
大会は38チームが参加して11月7日に開幕した。競技方法は各ラウンド4人中上位3人のスコアを採用しての72ホールストロークプレーである。初日、日本は阪田が4アンダー、68をマークして引っ張り、チームスコアは1アンダー、215。首位に立った米国から6打差の4位につけた。
世界アマはここまでの13回中、米国が9勝と圧倒的な存在感を示していた。しかも当時は3連覇中。この年のメンバーは3連覇に貢献してきた41歳のベテラン、ジェイ・シーゲルやこの年の全米アマ王者スコット・バープランク、NCAA覇者のジョン・インマンら実力者ぞろい。優勝候補筆頭が順当に首位発進したわけだ。
その米国が2日目に18オーバー、234と崩れて6位に後退した。日本は初日82でスコアが採用されなかった初出場の木村が70と巻き返すなど2アンダー、214にまとめる。通算3アンダー、429は英国・アイルランド連合に4打差をつけての単独首位だ。英国・アイルランド連合には後に欧州ツアーで8回の賞金王に輝くコリン・モンゴメリー(英国)がいた。
3日目、日本は6オーバー、222と苦戦するが、他のチームも好スコアを出せない。通算3オーバー、651の日本は英国・アイルランド連合に1打差にまで迫られたが首位の座は守った。
迎えた最終日、2位につけていた英国・アイルランド連合が12オーバー、228と失速する。対して日本は阪田72、加藤73、木村74で3オーバー、219にまとめた。4日間通算では6オーバー、870で追い上げてきた米国に7打差をつけて、ついに世界一に輝いた。
日本は阪田が4日間通算2アンダー、286という個人1位タイのスコアをマークし、加藤は4日間とも安定したスコアでプレー。木村と尾家は叩いた翌日にチームベストスコアを叩き出すなどかみ合わせも良かった。ノンプレイングキャプテンの中部は「個人総合1位の阪田、そして加藤の活躍、木村、尾家の健闘と全員の力が優勝へ導いた」(週刊ゴルフダイジェスト1984年12月5日号)と喜びを語っている。
3回の2位を経てつかんだ世界の頂点。世界アマ優勝を目標に掲げて研さんに励んできた人々の長年の努力が結実した瞬間でもあった。
この年はJGA創立60周年の節目でもあった。11月21日に開催された創立60周年記念パーティーで改めて快挙が祝われた。
この優勝を機に、JGAはナショナルチームを設置。さらなる強化に乗り出した。
文/宮井善一
参考文献
『JGA YEAR BOOK 2025』(公益財団法人日本ゴルフ協会)
『Record Book 1984 World Amateur Golf Team Championships』(WORLD AMATEUR GOLF COUNCIL)
『週刊ゴルフダイジェスト』1984年12月5日号、12月12日号(ゴルフダイジェスト社)
『阪田哲男のゴルフ魂』(阪田哲男著、日本経済新聞出版社)
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